「ヴァ-ナキュラ-な団地再生」
- 団地 rooms
- 2023年11月21日
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かつて、団地再生のアプローチについて発表の機会をいただいた際、「社会システム」としての住宅供給システムのデザインを語ったことを覚えている。「社会システム」の定義は「消費者への価値創造と供給の仕組み」である。すなわち、住宅というハードウェアの問題ではなく再生というソフトウェアの問題であることを指摘した。新しい生活空間をどのように経済的につじつまの合った構成にし、運用するかが中核課題であった。
かつて、見学したドイツの実例においても、政府の支援を前提にした計画であり、財務面での組み立てはあまり進んでいなかったと記憶する。当時、東西ドイツの融合を進めることが重要であり、東ドイツに存在する数千戸の低品質集合住宅群は政府としても対処すべき課題であった。
しかし、日本においての課題は微妙に異なっていた。低品質の集合住宅は同じように存在していたが、生活水準の向上や高齢化に伴って、自治体等が供給する集合住宅に対して消費者が価値を感じなくなっていることが課題であった。自治体の時代感覚不足であり、民間の活力を活用し、消費者にとって魅力があるが、経済的にも再生が成り立つような創意工夫が必要であった。単に住居費が安ければいいということだけでは、満足しなくなっていた。消費者の感じる価値も多様化していっている。そこで新しい価値の訴求が必要である。
その一案としてヴァーナキュラーな、すなわち土地の気候風土など、その土地に根差したデザインが組み込めないだろうかという提案である。
もはや古い表現になった電化や最近のデジタル化、情報化の活用により、住宅はひたすら便利になり、室内温も地域や四季に関係なく、25度から28度の辺りに平準化してしまうのではないかと思われる。それは必ずしも日本人の求めている価値ではないのではないか。「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる」という日本人の持つ季節感の美意識を失っていっている。
豊かな時代である現代では、住居の選択自由度は多岐にわたっている。極度に情報化し、環境をコントロールした住居も欲しければ手に入る。その一方で、多少不便だからこそその土地の気候風土と季節感を感じることを良しとする美意識をもった人たちもいる。そのようなヴァーナキュラーリズムに改めて目を向けることも必要であろう。
横山 禎徳(よこやま・よしのり)
特別会員
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